理事会から

2022/08/10

眼科専門医を標榜し続けるために必要な単位と生涯教育の意義

 「理事会から」とは申しても最近は学会と同様、理事会もハイブリッド形式で開催されており、Webで参加した場合には臨場感がないことに加え、名誉会員の先生方の時に厳しいご意見、ご指摘を伺う機会もほとんどなくなってしまい、少々刺激にも欠けます。だからというわけではありませんが、提供する話題にも事欠きます。そこで今回は日本眼科学会(以下、日眼)ならびに日本眼科医会(以下、日眼医)で自身も関わっている生涯教育事業と、専門医を標榜するために先生方が地道に取得しておられる単位について触れたいと思います。
 日本専門医機構(以下、機構)が鳴り物入りで立ち上げた新専門医制度ですが、構想が明らかになった後の機構側の準備がスムースでなかったことに加え、眼科の場合は日眼が日眼医とともに30年以上前から導入、運営してきた専門医制度が完璧に機能していたこともあって、機構が提供する制度への移行が当初の予定より遅くなりました。しかし、その移行措置が済んでいない診療科は残りわずかになってきたこともあり、今年の9月末をもって現行の日眼の専門医制度は終了し、10月1日以降、日眼の会員は原則として全員、機構が統括する制度に一気に乗り換えることになったのはご存じのとおりです。その準備に向けて近藤峰生専門医制度理事をはじめ、学会事務局のご苦労は想像に難くありません。この秋以降、全国規模の学会としては東京で開催される第76回日本臨床眼科学会(以下、臨眼)から新制度のもとでの単位取得が始まるわけですが、現場では様々な混乱も予想されます。このような顛末に至った経緯や今後の注意点については、昨年末の日眼会誌第125巻12号の「理事会から」と、本年初めの第126巻1号の「戦略企画会議から」に近藤理事が解説されています。また、移行措置に伴う単位取得に関する情報は「日本の眼科」誌上でも繰り返し紹介されていますので、ご参照ください。
 新しい制度のもとで専門医を標榜するための単位の取得方法については、これまでどおり学会や講演会への参加、日眼会誌に掲載されている生涯教育講座の問題に対する解答の提出などのほか、校医を1年以上務めた場合にも単位が得られるなど、様々なパターンがあるようですが、やはり多くの会員にとっての主な単位取得は学会や講演会への参加ということになると思います。その際、いくつかの注意点があります。まず、全国規模の学会への参加と聴講については、特別講演やシンポジウム、教育講演などが単位付与の対象となり、一般講演の会場に入って聴講したとしても1点にもなりません(ただし、地域単位の集談会や研究会などにおいては、特別講演などと一般講演を組み合わせることによって、一般講演にも単位が付与される特別ルールが加わる可能性があります)。したがって、従来のように学会場の総合受付で単位を得るために専門医カードを提示するのではなく、各講演会場の入り口でカードをかざす必要があります。当然、会場入り口では大混雑を生じる可能性があります。また、今後は眼科に関する講演の聴講だけでなく全科共通の必修講習として、医療安全、感染対策、医療倫理などの受講が義務付けられます。学会終了後のオンデマンド配信による参加については、学会場あるいは会場外でライブ配信に参加した場合とは異なり、コロナ禍の影響によるこの2年間の措置と同様、得られる単位数は原則として半分となります。今後、コロナ禍が収束した後はどうなるかわかりませんが、当面の間、財政的に余裕のある学会では会場とWebによるハイブリッド開催(+オンデマンド配信)、そうでない中小の学会は現地開催のみ、あるいはWebのみの開催形式が続くことになると予想されます。
 Webを通じての学会参加については賛否両論があるものの、これまで日眼総会や臨眼などの学会場に直接訪れることが物理的に困難であった会員にとっては当然のことながら好評です。本来、生涯教育に関わる事業へのアクセスに有利・不利があってよいはずもなく、現在のような開催形式は今後も定着していくことと思います。一方で、Webによる学会や講演会への参加は自宅や職場のみならず、極端に言えば飲食店や温泉に浸かっていてもWeb環境さえ整っていれば可能となり、受講したことになるので、究極の性善説に立った制度ということになります。もっとも、現地で開催される学会の場合も、広い会場で熱心に聴講している最前列の先生も、スマホで食べログのチェックをしている最後尾の先生も、受付でカードを提示してスキャンさえすれば同じ単位が与えられてきたわけですから、本質はあまり変わりないのかもしれませんが。その昔、たいして面白くもない講義にも出席だけはして、進級や卒業に漕ぎつけてきた学生時代の単位制度と変わらないようにも思えます。ちなみにWebでの参加には得られる単位数に上限が設けられることになりますので、注意が必要です。
 そもそも機構による専門医の定義とは、「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて十分な知識・経験を有し、患者から信頼される標準的な医療を提供できる」「それぞれの診療領域における先端的な医療を理解し、情報を提供できる」ことと定められています。むろん、患者の立場からすれば、「専門医」を標榜する医師に対しては十分な知識と技能を持ち合わせたプロフェッショナルをイメージしていると思いますし、この点は我々日眼の会員も一患者として医療機関を訪れることになった場合には当然、専門医としての知識、経験、技能を期待して受診するはずです。しかし、現実は、いったん試験に合格してしまえば、「パソコンに電源を入れる」「学会にアクセスする」ことが「学会への参加」として認められ、「生涯教育としての単位が付与される」「結果として専門医を標榜できる」わけで、本当にこんなんでいいの? と思わないでもありません。何の縛りもないよりマシであることは言うまでもないのですが。
 一方で、オンデマンドの学会参加には計り知れないメリットもあります。例えば日眼総会や臨眼のように同時進行で複数の講演が行われるようなプログラムでは、ともすれば自身の専門領域の会場に入り浸ってしまう傾向があり、興味があっても他の領域の最新情報を得ることが難しいというジレンマがあるわけですが、オンデマンド配信はこの問題を解消してくれます。結局のところ、各会員が医療人として高い意識を持ち続け、最新の医療情報や自分に欠けている、あるいは得意としない領域の知識の補完を、医療に携わっている限り生涯にわたって続けていくことが必要で、生涯教育とはそのための手段の提供であり、それを取り入れていく覚悟であろうと思います。
 新しい専門医制度への移行に際しては、眼科に限らず多くの診療科も振り回され、新制度に移行したものの円滑に運営されていない領域もあるように聞いています。面倒なことが積み重なると、専門医制度そのものに対する疑問や不信感が蓄積していくかもしれません。以前は時々耳にすることもありましたが、専門医であることに伴うインセンティブについても、最近はめっきり議論を聞く機会が減ってしまったように感じます。いずれ自分もメスを置き、専門医の更新手続きをやめる日が訪れるのでしょうが、この秋以降の混乱に辟易し、更新を控える会員が増えてしまうようなことはないだろうかと、一抹の不安を感じないでもありません。
 いずれにしても何のための、誰のための専門医制度であるのか、今一度、考え直す時にあるように思います。

公益財団法人 日本眼科学会
理事 後藤  浩