【IgG4に関連する眼疾患の名称について】
眼科領域に生じるIgG4関連疾患の名称に関するお知らせです。
去る2011年10月にボストンで開催された第1回国際IgG4関連疾患シンポジウムにおいて、これまで乱立していた病名を今後は“IgG4-related ophthalmic disease”という疾患名に統一することが決まりました。この呼称は2012年6月の論文にも掲載されております(IgG4関連疾患に関するこれまでの背景については次項をご参照ください)。この決定を受け、2012年7月に宇都宮で開催された第30回日本眼腫瘍学会においても、同国際シンポジウムに参加した高比良雅之(金沢大学)、安積 淳(神戸海星病院)から報告がありました。その折に日本語ではどう呼称するかが議論となり、その結果、“IgG4-related ophthalmic disease”の名称を国際シンポジムで最初に提唱した安積らの進行により、名称の候補として「IgG4関連眼疾患」、「IgG4関連眼病変」、「IgG4関連眼部疾患」、「IgG4関連眼部病変」、「IgG4関連眼症」、「IgG4関連眼病」などが候補として挙げられました。それぞれにつき賛否の意見が出たところで、最終的に学会出席者による採決を試みたところ、圧倒的多数で「IgG4関連眼疾患」が支持されました。日本眼腫瘍学会はIgG4関連疾患に携わる眼科医が最も多く集まる学術会議であり、このような形式でコンセンサスが得られた意義は極めて大きいと思われます。この合意を受け、今後、眼科領域に生じるIgG4関連疾患の総称としては「IgG4関連眼疾患」を用いることが推奨されることをご報告申し上げます。
【IgG4関連疾患とは?】
IgG4関連疾患とは、全身の様々な臓器においてIgG4免疫染色陽性のリンパ形質細胞浸潤を伴う腫大、腫瘤、結節、肥厚性病変病巣がみられる病態です。この疾患概念の発見は、2001年に信州大学内科のHamanoらが自己免疫膵炎症例において血清IgG4が特異的に上昇していることをNew England Journal of Medicine誌で報告したことによります。また、2005年に札幌医大内科のYamamotoらは、涙腺、唾液腺の対称性腫大がみられる、いわゆるMikulicz病もIgG4に深く関連していることを報告しました。以来、IgG4関連病変は、下垂体炎、涙腺炎(Mikulicz病)眼窩炎症、副鼻腔炎、唾液腺炎、甲状腺炎、肺病変、肝炎、硬化性胆管炎、自己免疫性膵炎、大動脈炎、腎病変、後腹膜線維症、腸管膜炎、前立腺炎、リンパ節炎、皮膚病変など、全身の多臓器にみられることが明らかとなり、IgG4関連疾患(IgG4-related disease)の概念が提唱されました。
【IgG4関連疾患の疾患概念の確立、診断基準制定の動向】
IgG4関連疾患の発見からちょうど10年目にあたる2011年には2つの大きな動きがありました。そのひとつは厚生労働省難治性疾患克服事業の2つのIgG4関連疾患研究班(岡崎班と梅原班)での合意として、「IgG4関連疾患の包括的診断基準-2011」が定められたことです。(Umehara H, Okazaki K, et al. Comprehensive diagnostic criteria for IgG4-related disease(IgG4-RD), 2011. Mod Rheumatol. 2012;22:21-30.)
これは、全ての臓器のIgG4関連疾患を包括する診断基準です。診断の感度向上のため、臓器特異的診断基準も付記されており、眼領域ではMikulicz病の診断基準が該当します。
ふたつめとして第1回国際IgG4関連疾患シンポジウムが2001年10月にボストンで開催され、疾患概念と名称ならびに病理診断のコンセンサスが討議されました。
(Deshpande V, et al. Consensus statement on the pathology of IgG4-related disease. Mod Pathol. 2012 May 18. doi:10.1038/modpathol. 2012.72.[Epub ahead of print])
(Stone JH, et al. IgG4-Related disease:recommendations for the nomenclature of this condition and its individual organ system manifestations. Arthritis Rheum. 2012 Jun 26. doi:10.1002/art. 34593.[Epub ahead of print])
これらの疾患概念や診断基準は、当然今後も検証されるべきものですが、現時点における重要な指標と考えられます。眼科領域では、末梢神経(特に眼窩下神経)に沿った腫大した病変、外眼筋炎、視神経症誘発の可能性、肥厚性強膜炎症例、特発眼窩炎症との鑑別困難な症例、眼窩を越えて眼瞼、顔面、頭蓋内に伸展する症例なども経験され、涙腺炎以外にも多彩な病変が発症することが明らかになってきました。その包括的名称として、この度“IgG4-related ophthalmic disease”が世界的に認知されたわけです。そして今回、その邦語として「IgG4関連眼疾患」を日本眼腫瘍学会として提唱させていただくことになりました。