ベーチェット病は、免疫の異常によって全身の血管に炎症を起こす自己免疫疾患です。原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因と環境要因(感染など)が関与していると考えられています。
診 断
ベーチェット病の診断は、患者さんの症状や病歴をもとに行います。以下の診断基準があります:
- 繰り返す口内炎(口腔粘膜の潰瘍)
- 皮膚の症状(結節性紅斑など)
- 陰部潰瘍
- 眼の炎症(ぶどう膜炎など)
ベーチェット病を疑う場合、血液検査や遺伝子検査を行うことがあります。ただし、特異的な検査はないため、総合的な判断が必要です。
目の症状
ベーチェット病における眼合併症は、ぶどう膜炎が最も重要であり、眼の内部に発作的に炎症が起こり視力に大きな影響を与えることがあります。炎症を生じる場所により、主な症状には以下が含まれます:
- 前部ぶどう膜炎(虹彩炎):充血、痛み、視力低下、光に敏感になるなどの症状が現れます。
- 後部(網膜)ぶどう膜炎:特に視力にとって重要な黄斑部に炎症を生じると視力低下、ものが歪んで見えるなどの症状が現れます。
- 網膜血管炎:網膜の血管に炎症が起こり、出血や浮腫が生じます。
- 視神経の炎症:重篤な視力低下や視野の異常が生じることがあります。
眼科的検査
- 視力検査、眼圧検査、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査、光干渉断層計(OCT):眼の炎症の有無や程度を評価します。
- フルオレセイン蛍光眼底造影:網膜の血流状態や血管炎を確認するために行います。
- その他の検査:MRIやCTで視神経や他の臓器への影響を調べることがあります。
治 療
ステロイド薬
- 点眼薬:眼の前部(虹彩炎など)に炎症がある場合、ステロイドの点眼薬を用いて炎症を抑えます。炎症が軽い場合は点眼のみでコントロールできることがありますが、重症例では効果が不十分な場合があります。
- 眼局所注射:眼の後部に炎症が及んでいる場合、眼球の周囲や内部にステロイドを直接注射します。これにより、炎症を迅速に抑えることができます。
- 内服薬:重篤な炎症がある場合には、全身的に効果を発揮するステロイドの内服薬を使用します。ただし、副作用として高血糖、骨粗しょう症、免疫力低下などがあるため、慎重に使用されます。
免疫抑制剤
免疫抑制剤は、免疫システムの過剰な反応を抑えることで炎症をコントロールします。使用される薬剤にはいくつかの種類があります:
- シクロスポリン:強力な免疫抑制作用があり、特に眼の炎症を抑えるのに効果的です。ただし、腎機能への影響などの副作用に注意が必要です。
- アザチオプリン:比較的穏やかな免疫抑制剤で、長期的に使用されることが多いです。白血球の減少や肝機能障害などの副作用に注意しながら使用します。
- メトトレキサート:炎症を抑える効果があり、週1回の服用が一般的です。肝機能検査や肺の状態を定期的にチェックする必要があります。
生物学的製剤
最近の研究で、ベーチェット病の眼合併症に対して生物学的製剤が非常に効果的であることが分かっています。生物学的製剤は、炎症に関与する特定の分子を標的とする治療法です。
- インフリキシマブ(レミケード®): TNF(腫瘍壊死因子)という炎症物質を阻害する薬剤です。点滴で投与され、炎症を強力に抑えることができます。
- アダリムマブ(ヒュミラ®): こちらもTNF阻害剤で、皮下注射により使用します。患者さんが自宅で自己注射できることが多く、定期的に使用することで再発を防ぎます。
その他の治療法
- コルヒチン:軽度の関節症状や皮膚症状がある場合に用いられますが、眼合併症にはあまり使用されません。
- 抗TNF療法以外の生物学的製剤:インターロイキン(IL-1、IL-6など)を標的とする薬剤が試みられる場合がありますが、効果の評価はまだ進行中です。
補助療法
痛みが強い場合には鎮痛薬を使用することがあります。また、ステロイド使用に伴う骨粗しょう症を予防するために、ビタミンDやカルシウムの補充を行うことがあります。
副作用
ベーチェット病の眼合併症の治療には、強力な薬剤が使用されるため、副作用に注意が必要です。以下に、それぞれの治療に伴う具体的な副作用について詳しく説明します。
ステロイド薬の副作用
- 点眼薬:長期使用により眼圧が上昇し、緑内障を引き起こす可能性があります。また、白内障が進行することもあります。眼圧を定期的にチェックすることが大切です。
- 眼局所注射:局所的な副作用として眼内感染(眼内炎)、眼圧の急上昇などが挙げられます。注射後は視力や眼の状態を注意深く観察する必要があります。
- 内服薬:全身性の副作用として、高血糖、高血圧、骨粗しょう症、体重増加、免疫力低下、胃潰瘍などが起こる可能性があります。長期使用の場合は、骨密度の測定や血糖値、血圧の管理が必要です。
免疫抑制剤の副作用
- シクロスポリン:腎臓への影響が大きく、長期間使用することで腎機能低下や高血圧が生じることがあります。定期的な血液検査で腎機能を監視することが必要です。また、毛深くなる、歯肉肥大などの副作用もあります。
- アザチオプリン: 骨髄抑制によって白血球や血小板が減少することがあり、感染症のリスクが高まります。肝機能障害も起こることがあるため、定期的な血液検査が必要です。まれにアレルギー反応が出る場合もあります。
- メトトレキサート:肝障害や肺障害が起こることがあります。咳や息切れが出た場合はすぐに医師に相談する必要があります。また、口内炎や消化不良などの消化器症状もみられることがあります。
生物学的製剤の副作用
- インフリキシマブ(レミケード®): 投与中にアレルギー反応が起こることがあり、発疹、呼吸困難、発熱などの症状が現れることがあります。また、結核やウイルス感染症のリスクが高まるため、治療前に結核検査を行います。長期的には悪性腫瘍のリスクがわずかに高まるとの報告もあります。
- アダリムマブ(ヒュミラ®): インフリキシマブと同様に、感染症にかかりやすくなります。注射部位の反応(赤み、腫れ、痛み)や全身性の副作用(発熱、疲労感)が出ることがあります。また、まれに神経系の障害や自己免疫疾患を引き起こすことがあります。
コルヒチンの副作用
- 消化器症状:下痢、腹痛、吐き気などの消化器症状が一般的です。服用量を調整することで症状が緩和されることがあります。
- 筋肉への影響:長期使用により筋肉痛や筋力低下が起こることがあります。特に腎機能が低下している患者さんは注意が必要です。
その他の治療法の副作用
- 抗TNF療法以外の生物学的製剤:これらも感染症のリスクが高まり、重篤な感染症が発生することがあります。また、注射部位の反応やアレルギー反応がみられることがあります。
全体的な注意点
- 感染症リスク:免疫を抑える治療では、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。手洗いやワクチン接種など、感染症予防を心がけましょう。
治療の流れと経過観察
ベーチェット病の治療は長期にわたることが多く、炎症の状態に応じて薬剤の調整が行われます。急性期には積極的な治療が必要ですが、炎症が落ち着いたら、再発予防のために免疫抑制剤による維持療法が行われます。
また、副作用を予防するために定期的な血液検査や眼科検診を受けることが大切です。治療の効果や副作用をモニタリングしながら、最も適した治療を選択していきます。
予 後
適切な治療を受ければ、視力の維持が期待できる場合が多いですが、炎症が繰り返されることがあります。炎症を放置すると視力に永続的な影響が出ることもあるため、早期の治療が重要です。
その他の注意点
- 定期的な受診:眼科を含む複数の専門医との連携が必要です。炎症が再発しないか定期的にチェックすることが大切です。
- 生活習慣の管理:ストレス管理や規則正しい生活を心がけ、体調の変化に注意を払うようにしましょう。
- 感染症予防:免疫抑制治療を行う場合は、感染症に対する注意が必要です。