定義
バセドウ病眼症とも呼ばれ「バセドウ病でみられる目の症状」といえます。バセドウ病では、甲状腺ホルモンが過剰(甲状腺機能亢進)となりますが、甲状腺機能が正常あるいは低下している場合でも目に症状が現れるので「甲状腺眼症」という名称が一般的に用いられます。
病態
甲状腺眼症は自己免疫疾患です。本来、免疫反応は細菌やウイルスなど病原体を標的としますが、甲状腺眼症では『甲状腺刺激ホルモン受容体』という自らのタンパク質が標的にされます。その結果、目の周りで細胞(線維芽細胞)の働きが刺激され「炎症が起こる、脂肪が増える、組織が硬くなる」などの現象が起こります。
この反応は週単位、月単位で悪化しますが、ピークを超えると自然に終息します。早くて半年、長ければ数年の経過です。問題は次に述べる症状の一部が残ってしまうことです。症状が重いほど残る症状も強い傾向があります。
症状
炎症が目の周りに起こるため、ひどい場合、目の奥に不快感が生じたり、目を動かす際に痛みが出ます。また「まぶたが赤くむくむ、しろめが充血する・ぶよぶよする、目頭が赤い」も炎症が強いときの症状です。さらに「涙が出る、目が悪くなった」などの症状は、病気の初期段階によく起こります。これらの炎症による症状は、経過とともに鎮静化していきます。
一方で、まぶたには「腫れる(眼瞼腫脹)、見開いてしまう(眼瞼後退)」など、この病気に特徴的な変化がよく起こります。これらは脂肪が増えたり、組織が硬くなるのが原因で、改善するものの、後遺症化しやすい症状です。「目が出る(眼球突出)、目を動かしにくい、モノが2つに見える(複視)」なども同様です。
なお、最も重症な場合は失明します。これは、目と脳をつなぐ視神経や眼表面に生じる高度な障害が原因であり、緊急な対応が必要な状態です。
これら症状は、見え方のみならず、外見の変化により人目が気になるといった社会的・心理的影響も大きな問題となります。
検査
診断には、血液検査で甲状腺刺激ホルモン受容体抗体を検出することが重要です。また、目の周囲組織に起こる炎症や脂肪・筋肉の変化をMRIで評価し、適切な治療方針を決めます。
甲状腺眼症のMRI画像。眼球を動かす外眼筋の筋腹が肥大している。
治療
甲状腺機能の正常化(低下させない)および禁煙は、甲状腺眼症治療の第一歩です。症状には大きな個人差があり、状態が収まるまで経過を観ることも選択肢の一つとなります。
治療を行う場合、炎症の有無によって、薬物治療か観血的治療(手術)に分けられます。
炎症に対する薬物療法は、副腎皮質ホルモン製剤(ステロイド)の大量投与が基本で、目の周囲への局所注射、もしくは点滴(+内服)で全身投薬を行います。また、放射線治療にも補助的効果が期待できます。近年、テプロツムマブという生物学的製剤(点滴投与)が登場し、高い治療効果が示されています。
観血的治療は、炎症が治まった後の眼瞼の異常や斜視、眼球突出に対して行います。「目の周りの脂肪を取る、筋肉や腱を移動させる、顔の骨を削る」といった特殊な手術を行っている医療機関は限られます。なお、失明の危険が高い最も重症な例では、炎症がある場合でも手術(眼窩減圧術)を勧めることがあります。
甲状腺眼症と似た症状を示す病気
特発性眼窩炎症、IgG4関連眼疾患、リンパ腫は、鑑別を要する疾患として挙げられます。
監修:日本眼形成再建外科学会 (参考:
http://www.jsoprs.jp)