2019/05/10

ドライアイ診療ガイドライン

ドライアイ研究会診療ガイドライン作成委員会

ドライアイ診療ガイドラインの読み方

 ドライアイ研究会より、診療ガイドラインをお届けすることができ、大変嬉しく思います。
 診療ガイドラインとは、「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのあるシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考慮して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されます(福井次矢・山口直人監修『Minds診療ガイドライン作成の手引2014』、医学書院、2014)。これまでもドライアイ研究会では、3回にわたってドライアイの定義と診断基準を発表し、診療および研究に寄与してきました。日本は、世界の中でもドライアイ診療の先進国といえます。多くの優れた研究が本邦より発信され、また他に類をみない多くの治療オプションを持ったことで、この流れはさらに加速しています。こうした中で、本邦初のドライアイ診療ガイドラインが作成されたことには大きな意義があると思われます。
 諸外国に目を向けますと、ドライアイ診療に関する数多くの指針が出されていますが、そのほとんどは専門家による話し合いで決定されています(CQ1参照)。今回我々は、そうした“authority-based”ではなく、きちんとした“evidence-based”の診療ガイドラインを作成することが一層の診療レベルの向上につながると考え、このプロジェクトを立ち上げました。その目的で今回は、「Minds形式に沿ったガイドライン作成」を行っています。Minds(Medical Information Network Distribution Service)は、「質の高い医療の実現を目指して、患者と医療者の双方を支援するために、診療ガイドラインと関連情報を提供すること」を目的として厚生労働省の委託を受けて、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業です(https://minds.jcqhc.or.jp/s/about_us_overview)。日本で公開された診療ガイドラインを収集し、評価選定を行い「ガイドラインライブラリ」としてウェブ上で発表するとともに(https://minds.jcqhc.or.jp/)、ガイドライン作成の手引きを発表して、望ましい診療ガイドライン作成の手助けをしています。その特徴の一つは、診療上の重要課題(クリニカルクエスチョン:CQ)を決めて、それに対する推奨を提示する形式をとっていることです。今回はこの形式に沿って、国内外の信用のおける(エビデンスレベルの高い)論文に基づいた推奨を提示することを心掛けました。
 しかしながら、この形式は基本的に治療方針の決定に最も適しているものの、エビデンスレベルが高い論文の少ない診断や検査などでは適用が難しいといえます。また、全身疾患に比べてドライアイでは、治療効果の指標(アウトカム)の設定に決まったものがないことも難しい点の一つです。そのため推奨提示で示すことができない重要な課題も「総説」や「トピックス」、「患者さんからの質問」といった形で取り上げました。そのため、厳密な整合性の面では議論となる部分が残っていますが、診療ガイドラインは「教科書や決まりごとを示すのが目的ではなく、あくまで診療の手助けになること」が本来の目的であると考えての結果とご理解いただければと思います。
 診療ガイドラインは、一度作成したらおしまい、というものではありません。事実、このガイドラインの作成過程においても重要な論文が次々に発表されています。本ガイドラインは、現時点(2017年末)での推奨、と捉えていただければと思います。継続的にアップデートする必要があります。本ガイドラインが、ドライアイにかかわる皆様の診療、教育、研究の一助となれば、作成にかかわったものとしてこれ以上の幸せはありません。

ドライアイ研究会診療ガイドライン作成担当
東京歯科大学市川病院眼科 島崎  潤

(日眼会誌123:489-592,2019)


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